ラーニングアナリティクスのはじめ方⑨ Deep Linking (ディープリンク):外部の教材と連携する (Edtech#17)
エビデンスに基づいた学習環境の改善を行うことで、学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させるために重要な位置づけとされるラーニングアナリティクス。
前回は教育ダッシュボードの UI実装についてお話ししました。
ここまででラーニングアナリティクスを始めるための環境は整います。
今回はラーニングアナリティクス環境が整ったからこそ容易に実現できる「外部教材との連携」についてお話しします。
【 目次 】
- これまでの内容
- 外部教材と連携する
- LTI で外部教材と連携
- LTI の機能
- DeepLinking (ディープリンク)で指定した教材を開く
- AGS で外部テストの成績を受け渡し
- NRPS で名前と役割を受け渡し
- 外部ツールと連携するメリット
これまでの内容
ラーニングアナリティクス環境を構築する手順として、以下のような流れでお話ししてきました。
① プランを立てる
② チームを作る
③ 教材やツールをまとめる( LTI )
④ 学習行動データを標準化する( xAPI )
⑤ 横断的な学習行動データを蓄積する( LRS )
⑥ 学習行動を可視化する(教育ダッシュボード)
⑦ データの利活用を促進する(UI設計1:プロセス)
⑧ データの利活用を促進する(UI設計2:実装)
この工程の中で、実はすでに「外部教材との連携」を実現するための準備は整っているのです。今回は外部教材との連携についてご説明します。
外部教材と連携する
今回は「ラーニングアナリティクス」からは少しずれた内容となります。
とはいえ「外部教材の連携」は、「学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させる」というラーニングアナリティクスの目的と合致します。
しかも、これまでご説明してきたプロセスが完了していれば、すでにその準備が整っているのです。
せっかくなら「外部教材との連携」まで実現することをお勧めします。
LTI で外部教材と連携
3話目の「ラーニングアナリティクスのはじめ方③ LTI:教材やツールをまとめる」という記事で教材やツールの LTI 連携について解説しました。
LTI 化により、学内の教材それぞれにログインする必要がなくなり、シングルサインオンでシームレスに連携できるという内容です。
◆LTI 連携前(それぞれのシステムに個別でログインが必要)
◆LTI 連携後( LMS に一度ログインすればシームレスにツール連携)
LTI 連携の有効性は学内のみにとどまりません。
学外に存在する教材や CBT (Computer Based Testing) などのツールにも連携することができるようになります。
例えば文部科学省が推進している MEXCBT と連携することで、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)を利用することができます。
これにより教員は小テスト等を作る負担が減るほか、採点に取られる時間も削減できます。
LTI の機能
ここからは LTI (LTI1.3) で外部ツールと連携する際のさらに詳しい仕様についてお話します。
LTI1.3 では以下3点の機能が追加されました。
・Deep Linking (ディープリンク)
・AGS (Assignment and Grade Services)
・NRPS (Names and Role Provisioning Services)
これらの機能を使って、ただ単に外部ツールと連携するだけでなく、様々な情報の受け渡しができるようになります。
ここからそれぞれの機能について簡単に解説します。
DeepLinking (ディープリンク)で指定した教材を開く
1EDTECH の説明では、「 ディープリンクの仕様は、プラットフォームが外部ツールから収集したコンテンツをより簡単に統合することを可能にする。」としています。
Deep Linking specification allows a Platform to more easily integrate content gathered from an external Tool.
(1EDTECH : Learning Tools Interoperability (LTI)® Deep Linking Specification)
DeepLinking を使うことで、教員があらかじめ教材内の指定のページへのリンクを用意し、学生はそのリンクから教員が指定したページを閲覧することができます。
外部教材の通常の目次ページを開いて、そこから適切なページを選択するのではなく、適切なページに直接連携させることができるのです。
先ほどの MEXCBT の例でいうと、 MEXCBT のトップページにリンクさせるのではなく、例えば「英語の現在進行形の基礎テスト」があったとすると、そこへダイレクトにつなぐことができます。
AGS で外部テストの成績を受け渡し
DeepLinking の最後で外部教材の特定のテストにリンクすることができるとお話しましたが、 AGS (Assignment and Grade Services) ではそこで実施したテストの結果を、学内プラットフォーム*と外部ツール*の間で受け渡すことが可能となります。
例えば各学生が外部ツールでテストを実施します。その結果データを学内プラットフォームに取り込み、各学生の「スコア」やテストで使った「時間」などをスコアボードにまとめることができます。
NRPS で名前と役割を受け渡し
NRPS (Names and Role Provisioning Services) では、その名の通り「名前」と「役割(生徒、教師、TAなど)」のデータをセキュアに受け渡すことができます。
AGS の解説で、各学生が外部ツールのテストを実施し、そのスコアボードをまとめる話をしました。
逆にツール側でスコアボードを表示する場合など、ツール側で名前情報が必要になることがあります。
こういった時に NRPS を利用すれば、プラットフォームで管理されている名簿から役割や名前、メールアドレスやユーザーIDなどの情報を ツール側で取得することができます。
外部ツールと連携するメリット
以上のように、ラーニングアナリティクスを実現する一連の記事の中で対応した「教材やツールの LTI 連携」により、学内だけでなく外部教材とも連携する道が開かれています。
また、今回ご紹介した DeepLinking, AGS, NRPS などの機能を活用して、学外のツールと学内のプラットフォーム間で、様々なデータを受け渡すことができるので、学外のツールで学習した成績や時間などの情報を、学内プラットフォームの学習行動データとして蓄積し、ラーニングアナリティクスに活用することも可能です。
前回までの記事で、学内の教材やツールを LTI 連携し、 xAPI 形式のデータを LRS に蓄積し、教育ダッシュボードで可視化することで、「学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させる」というゴールに向けて、大きな一歩を踏み出すことができました。
せっかくであれば教材の枠をさらに学外へ、海外へと広げることで、より「学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させる」効果を向上することもご検討いただければと思い、今回の内容をご紹介しました。
スパイスワークスでは LTI 連携の対応はもちろん、 DeepLinking, AGS, NRPS への対応についても、教育工学の研究段階から教育現場、教育ビジネスまで幅広く実績があります。ご興味やご不明点があればお気軽にご相談ください。
【出典・参考文献】
・文部科学省:文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について
・IMS GLOBAL (1EDTECH):Learning Tools Interoperability (LTI)® Deep Linking Specification
・IPS 一般社団法人情報処理学会 : 学習基盤を拡張する国際技術標準 IMS LTI 1.3 第1回 LTI 1.3の機能と意義(常盤祐司・山田恒夫)