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#90 ラーニングアナリティクスのはじめ方③ LTI:教材やツールをまとめる

様々な教材やツールで学ぶ学習者の行動
連載一回目では、ラーニングアナリティクス(教育データの利活用)を始めるにあたっての計画の立て方、第二回目ではチームの作り方についてお話しました。

今回の記事はこのような方に向けて書いています。

「ラーニングアナリティクスといっても、どこから手をつければいいのか漠然としている。」

「学内にあるバラバラな教材をまとめるにはどうすればいいのか明確な指針がない。」

「 LTI とはそもそもどういうことか理解しきれていない。」

プランができ、チームが立ち上がれば、システムの設計・実装に進むことができます。
プランを立てる」の回で、「順をおって開発を進める手法」をご紹介しましたが、そこで最初に取り組む内容が、バラバラになっている教材をまとめることです。(すでに LTI化に対応済みで学内の教材・ツールが相互連携されているようであればこの記事は読み飛ばしてください)

【 目次 】

  1. 教材・ツールをまとめる
  2. LTI とは
  3. LTI 化のメリット
  4. LTI のセキュリティ
  5. まとめ:なぜ LTI から始めるのか

 

 

教材・ツールをまとめる

学内には様々なデジタル教材やツールがあるかと思います。
e-Book システムや動画教材、チャットや共同学習システムなどがこれにあたります。

これらがバラバラに存在する状態で学習行動データを蓄積しようとすると、データの所在もバラバラになり、アプリケーションごとに分析しなければなりません。

まずは学内のビッグデータを集めるところから始めるのが、ラーニングアナリティクスの第一歩です。

独自のシステムを開発して教材やツールを相互連携することもできますが、これをやってしまうとゆくゆくの発展性を狭めることになってしまいます。

「 LTI 」という国際的な技術標準を活用して教材やツールを相互連携することを、強くお勧めします。
 

 

LTI とは

LTIとは Learning Tools Interoperability (学習ツールの相互運用性)の頭文字で、学習用のプラットフォーム( Moodle, Sakai, Blackboard, Canvas などの LMS )を外部ツールと連携させるための技術標準です。

LTI は 1EdTech Consortium によって開発された規格で、特定の製品をさす名称ではありません。( 1EdTech : LTI Fundamentals FAQ )

以前は下図のように、学生や教員がそれぞれの教材やツールに、個別にログインする必要がありました。

LTI無し:それぞれのシステムにログイン

しかし、LTI化によってプラットフォームを外部ツールと連携させると、下図のように一度ログインしただけで、シームレスに教材やツール間を行き来する(シングルサインオン = SSO)ことができます。

LTIのシングルサインオンでシームレスに

こうして教材やツールを連携させることで、各アプリケーションでの学習行動データを、一か所に集積することが可能になります。

学習行動データの蓄積方法については今後の記事でご紹介しますが、そのための第一歩として、 LTI によってプラットフォームと教材やツールを相互連携させることが重要となります。
 

 

LTI 化のメリット

それではなぜ開発の第一段階として、 LTI化をお勧めするかについてご説明します。

その理由には、開発手順として LTI 化がほぼ必須ということもあります。
しかしそれだけでなく、 LTI 化することによって、教員、学生、学習環境の管理者など、メリットを享受することができる対象が幅広いことも、大きな要因の一つです。

LTIを導入することで、以下のようなメリットが考えられます。

一度ログインすれば様々な教材やツールをシームレスに利用できる。

LMS から外部のテストや教材に接続することができる。

学習活動データを統合して収集することができる。

一度ログインしただけでシームレスに教材やアプリケーションを利用できる「シングルサインオン機能」は、学生や教員の利便性を高めることにつながります。

また、「教材やツールの連携」は学内だけでなく、学外のツールも含まれます。

例えば、 文部科学省が推進している MEXCBT
MEXCBT は、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)プラットフォームですが、 LTI を活用すれば学内のプラットフォームからシームレスに MEXCBT へ連携し、テストを受け、そのテスト結果を学内に返すことも可能です。

これに限らず、民間企業が運営している学習教材やツールについても、 LTI 対応が進みつつあります。
実際に弊社でも、自社の教育サービス(ツールやプラットフォーム)を LTI 対応したいという相談が増えており、今後も LTI に対応した外部教材やツールが増加するのは間違いなさそうです。

ラーニングアナリティクス環境の構築にあたり、まず第一に「 LTI化」をお勧めしている理由は、「学習データを統合して収集できる」という点で、ラーニングアナリティクスを実現する環境に大きく一歩を踏み出すと同時に、学生や教員に与えるメリットが大きいからです。
 

 

LTI のセキュリティ

シングルサインオンとなり、ID・パスワード等の認証情報を統合するとなると、このように感じる方もいるかもしれません。

「ID・パスワードが一つになると、セキュリティ的なリスクがあるのでは?」

ここでは LTI のセキュリティについても触れさせていただきます。

認証には 業界標準のプロトコル IETF OAuth 2.0 が採用され、バージョンが上がるにつれて脆弱性の改善も継続されています。

具体的な内容は技術的な話になってしまい簡略化することが難しいので、 1EdTech のサイトにある文章を要約・引用します。

認証サービスに業界標準のプロトコル IETF OAuth 2.0を採用し、安全なメッセージ署名に JSON Web Tokens (JWT) を使用、 Open ID Connect ワークフローパラダイムを採用しており、独自のセキュリティスキームや OAuth 1.0 のバリエーションを使用する非標準または古い LTI の実装は、脆弱性があり、 LTI 1.3 の方が管理責任者およびセキュリティ責任者に安心感を与える。
> Why Platforms and Tools Should Adopt LTI 1.3 (1EdTech)

以下、同サイトからの引用ですが、「最高レベルのプライバシー、セキュリティ、透明性を約束する。リスクは完全に回避することはできないが、最新かつ最も安全なバージョンの LTI に更新するなどで大幅に軽減することができる。」と述べられています。

1EdTech and its members are committed to the highest levels of privacy, security, and transparency in data handling. Risks cannot be avoided entirely but substantially mitigated through the exercise of due diligence, which includes keeping your learning products up to date with the latest and most secure versions of LTI.
> Security Update and Deprecation Schedule for Early Versions of LTI (1EdTech)

LTI についてのより詳しい内容は以前の記事でまとめてありますのでご参照ください。
文系でも理解できる教育DX:LTI 編
文系でも理解できる教育DX:LTI バージョン編
文系でも理解できる教育DX:LTI 1.3 編
LTIとは?文系でもこれだけで理解できる図式「教育DX」
 

 

まとめ:なぜ LTI から始めるのか

今回の記事では、教材やツールを相互連携するということで、 LTI についてご説明しました。

いきなり「ラーニングアナリティクスを実現しよう」となると、規模が大きすぎて何から始めてよいかわからず、迷っているうちに時が経ってしまいがちです。

そのような時は、 LTI 化から進めれば間違いはありません。

「規模が大きい」というのは学内での予算獲得にも関係します。
トップダウンのプロジェクトならよいのですが、現場からの提案となると、ラーニングアナリティクスはまだ先端的な取り組みとされている分野ですので、提案を受ける側のイメージが湧かない可能性が高いうえに、予算規模も大きくなってしまいます。
また、プロジェクトの期間も長くなるので、効果を実感するまでに時間がかかります。

LTI 化であれば、教材やツールがシームレスにつながる時点で、学生や教員にもダイレクトなメリットが享受されますし、将来的な教育環境を発展させるベースを築くことができます。
その将来像として、ラーニングアナリティクスによる教育環境の向上を掲げると、決裁者もイメージしやすいかと思います。

また LTI 化を実現する過程で、ご担当者のナレッジが向上します。
それによってゴールであるラーニングアナリティクスの実現、教育環境向上の実現について、より明確な地図を描くことができるようになります。
ゴールが明確になり、ナレッジが向上すれば、ゴールまでのプロセスも現実的で無駄のないものになってくるのです。

1人1台端末が実現された現在は、それをいかに活用するかが重要な課題となります。
端末が行き渡ったことで効果的な学習を実施できるようになっていますが、この先はさらなる学習環境の向上に向けて、学習行動の分析(ラーニングアナリティクス)によるエビデンスに基づいた学校教育の改善(文部科学省のサイトより)が求められることは間違いありません。

とはいえラーニングアナリティクスは、まだそのノウハウを熟知している人が多くありません。
だからこそ、今の段階で先進的な取り組みであるラーニングアナリティクスの実現を目指されるご担当者の皆さまには、順をおって着実に理解を深めながら正確な未来図を描いて、プロジェクトを成功に導いていただきたいと思っています。

次回は統合した学習行動データをどのように蓄積するかについて解説します。

スパイスワークスでは多くのラーニングアナリティクスプロジェクトに、コンサルティング、サーバー設定、システム開発、UIデザイン、研究支援など、全般的に携わってきました。ご興味やご不明点があればお気軽にご相談ください


【出典・参考文献】
・1EdTech : LTI Fundamentals FAQ
文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について(文部科学省)
・1EdTech : Why Platforms and Tools Should Adopt LTI 1.3
・1EdTech : Security Update and Deprecation Schedule for Early Versions of LTI
・情報メディア教育研究センター 常盤 祐司 : LTI1.3およびLTI Advantageの概要と課題 -日本における適用可能性-
・AXIES 大学ICT推進協会 : 2022年8月4日 教育・研究支援システムのデジタルエコシステム化 ~LTI連携を中心に~(Fun@Learn 代表 /常盤 祐司)
・文部科学省 : エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業