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#91 ラーニングアナリティクスのはじめ方④ xAPI:学習行動データを標準化する

xAPIであらゆる学習行動データを保存
前回は、 LTI を利用して教材やツールを一つにまとめるというお話をしました。

今回は教育データの利活用を行うために、 LTI でまとめた教材やツールを利用した学習行動データの保存形式を、標準化する方法について解説します。

【 目次 】

  1. xAPI 形式で学習行動履歴を保存する
  2. xAPI 以外の選択肢:Caliper
  3. xAPI 以外の選択肢:SCORM
  4. xAPI のメリットとデメリット

 

 

xAPI 形式で学習行動履歴を保存する

今回の記事では、 LTI 化によってまとめた教材やツールでの学習行動履歴を、どのように保存するかについて解説します。

学習行動履歴の保存形式には様々なものがありますので、慎重に検討したいところです。

その学習行動データの保存形式として、今回とりあげるのが「 xAPI 」です。

「x」は experience の略で、 xAPI では LMS 内での一部の活動に限らず、学習経験全般のデータを保持・取得することができます。

xAPI のデータは「私はこれをしました( I did this )」というフォーマットで経験を記録します。行為者( I )、動詞( did )、目的語( this )を基本として、スコア、評価、言語、その他追跡したいほぼ全てのものを含む様々な文脈データを保持することが可能です。

「API」は Application Programming Interface の略で、ソフトウェアシステムが相互に作用しデータを共有するためのインターフェイスを指します。簡単に言えば、システムと他のシステムの間を繋ぐソフトウェアです。

xAPI に関する Adobe 社の説明が、これらの内容を簡潔にまとめてくれていますので引用します。

Experience API (xAPI)は、あらゆるタイプの学習経験を記録し、追跡しつつ、学習コンテンツと学習システムを相互に連携させることを可能にする e ラーニングのソフトウェア仕様です。
Learning Manager の xAPI(Adobe)

ここで紹介されているように、 xAPI では「あらゆるタイプ」の学習経験を記録することができます。

ただし、学習行動データの保存形式は xAPI だけではありません。それ以外のものについて、この後取り上げます。
 

 

xAPI 以外の選択肢:Caliper

xAPI とあわせて紹介されるのが「 Caliper 」です。

まず両者の歴史をたどると、 xAPI は SCORM を策定した ADL が2013年にバージョン1.0を、2016年にバージョン1.0.3を発表したものです。
一方 Caliper は ISM Global Learning Consortium (現 1EdTech )が、2015年にバージョン1.0を、2018年にバージョン1.1を発表したものとなります。

この両者の違いについては、 1EdTech のサイトで以下のように述べられています。

CaliperとxAPIは、全く異なる起源を持ちます。 xAPIの中核は、電子的・物理的パフォーマンスを問わず、あらゆるタイプの体験とエビデンスの追跡を可能にするもので、(SCORMの場合と同様に)ウェブベースのコースだけに限定されるものではありません。 Caliper は、1EdTech Learning Analytics Frameworkを具現化したもので、センサーAPIとメトリックプロファイルは、そのフレームワークの最初の2つのコンポーネントです。 採用するにあたっては「どちらか一方」ではなく、「コースに合った」ものを決定すべきです。
Initial xAPI/Caliper Comparison (1EdTech)

記載のように、 1EdTech Learning Analytics Framework を利用する場合は、 Caliper を選択することになります。

また上記 1EdTech の記事によれば、 ADL と 1EdTech が、xAPI/Caliper の補完性を説明するホワイトペーパーを作成する、共同研究を実施するなどの可能性を示唆していますので、今後互換性を持たせることを検討しているのかもしれません。
 

 

xAPI 以外の選択肢:SCORM

また、もう一つの選択肢としては「 SCORM 」もあります。
SCORM は ADL が策定した、 eラーニングと LMS における標準規格です。

SCORM は ADL が xAPI の以前に発表したもので、取得できるデータは、コースの完了状況、学習の合計時間、スコア、場所などに限られます

SCORM で取得できるデータでも、スコアボードを表示して学習者の状況を確認することはできますが、本格的に学習行動を分析しようとすると、「時間」や「成績」だけでは十分とはいえません。

例えばデジタル教材にアンダーラインを引いたり、コメントを書いたり、チャットでスタンプを送るなど、ユーザーの多岐に渡る行動をログに残すことができる xAPI の選択が必要となります。

具体的な例をあげると、 SCORM でも以下のような仮説をもとに分析をすることは可能です。
・学習時間が多い学習者の方が成績が高いのでは?
・授業前に予習をした学習者の方が成績が高いのでは?

しかし、以下のような仮説をもとに分析しようとすれば、 xAPI を選択する必要があります。
・e-Book 教材でマーカーを積極的に引いている学習者の方が成績が高いのでは?
・e-Book 教材でメモ機能を積極的に活用した学習者の方が成績が高いのでは?

SCORM でも学習頻度や学習時間による分析は可能ですが、 xAPI を利用することで、学習スタイルによる分析が可能となります。
 

 

xAPI のメリットとデメリット

Adobe 社の引用にもあったように、 xAPI は「あらゆるタイプの学習経験を記録し、追跡」することができます。

それが xAPI のメリットですが、記録する学習行動データの内容が多ければ、それに応じてデータ量が多くなるというのが、デメリットにもなる部分です。

追跡するデータが多ければ、学習者が何かの行動をする度に、それを記録するためにサーバとの通信(トラフィック)が生じます。

また、それらの学習行動をサーバに蓄積すれば、それだけデータの保存場所である、サーバーストレージの容量が必要ということになります。

学内で提供されるサーバ容量やトラフィックなどの資源にも限りがあるかと思いますので、研究目的などでない場合は、やみくもにすべてのデータを保存するのではなく、取捨選択も必要になるかもしれません。

次回は学習行動データを蓄積するデータベースとなる、 LRS について解説します。


【出典・参考文献】
・Adobe : Learning Manager の xAPI(Adobe)
・1EdTech : Initial xAPI/Caliper Comparison
・atd : What is xAPI?