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#89 ラーニングアナリティクスの始め方②チームを作る

チームを作る
前回の記事では、ラーニングアナリティクスについての概略と、ラーニングアナリティクス(教育データの利活用)を実現する環境を構築するためのプロセスについて解説しました。

そのプロセスの中で1番目に来るのが、前回の記事でご説明した「①プランを立てる」ということ。

今回はそのプランを実際に進める「チーム」を作るという部分についてお話します。
プランを実行するチームを構築できれば、その後は具体的なシステムの開発を実行してゆくことができます。

【 目次 】

  1. プロジェクトチームを作る:黎明期の例
  2. プロジェクトチームに必要な知識
  3. どうやって必用な知識を集める?
  4. チーム構築のハードルは下がっている
  5. チームメンバーを選出する方法
  6. まとめ:最もシンプルなチーム構成

 

 

プロジェクトチームを作る:黎明期の例

ラーニングアナリティクスを実現するためのプロジェクトチームについて、黎明期と現状では必要要件が変わっています。
ご理解いただくために、まずは黎明期の例をお話します。(見方によっては今もまだ黎明期かもしれませんが)

弊社が最初にラーニングアナリティクスに関わったのは、教育工学の研究プロジェクトでした。
このころはまだラーニングアナリティクスが一般的に利用されるものではなく、教育工学という分野で、研究プロセスの一部として利用されていました。

特に「ラーニングアナリティクス」という名称で呼ばれてはいなかったかもしれませんが、研究のために学習行動データを取得し、学習行動の分析を行いました。

最初の取り組みは2005年頃になりますが、ラーニングアナリティクスといっても、地域や学校全体のビッグデータをまとめるような大規模なものではなく、一つの教材において学習者の行動データを蓄積し、学習者がどのような行動をとるかを知るという目的の学習行動分析でした。

この頃はまだ学習行動分析が一般的になる前、研究で利用されていた段階ですので、プロジェクトチームの中心に立つのは、教育工学分野の研究者の方々でした。

チームはそれほど大規模なものではなく、研究者メンバー数人と、システム開発、 UIデザインなどで携わる弊社メンバー数人という感じでした。

少人数とはいえ、教育工学の研究者の皆様は、ラーニングアナリティクス環境を開発するプロジェクトメンバーとしては、いうまでもなくスーパーハイスペックです。

教育のスペシャリストでありながら、システムの知見も、統計学の知見もあります。今では学習行動をグラフなどに可視化しますが、当初はサーバに蓄積されたログを直接分析されていました。

しかし普通の組織には、たとえ教育機関であってもそういう人材はなかなか存在しないでしょう。

そこで大切になってくるのが、プロジェクトチームを作って対応してゆくことです。
 

 

プロジェクトチームに必要な知識

プロジェクトチームを結成するためには、まずどのような知識が必要かを知ることが重要です。
それをもとにプロジェクトメンバーを選出することになります。

詳細を詰めれば色々と出てきますし、組織や最終的なゴールによって変わりますが、まずはざっくりとラーニングアナリティクス環境を実装するために必要な知識をあげてみましょう。

・教育

・システム設計

・ソフトウェア(プログラミングなど)

・ハードウェア(サーバ設定など)

・UIデザイン

・統計学

・プロジェクトマネジメント

これを見ただけで、「そんなメンバーはなかなか揃えられない」という声も多いかと思いますので、その状況をいかに克服するかについてお話します。
 

 

どうやって必要な知識を集める?

教育機関であれば、教育についての知見をお持ちの方は豊富にいらっしゃるでしょう。
プロジェクトメンバーに参加してもらうことは難しかったとしても、意見や評価をもらえるポジションとして参加してもらうことをお勧めします。

教育以外には、システムUIデザイン統計などそれぞれの専門知識が必要です。こういった専門家を集めてチームを作ることが容易な組織であればよいのですが、そう簡単ではないと思います。

大学ならリソース的には、各分野の研究者を集めることで実現が可能かもしれません。
しかし、そこまで総動員するのは現実的にはハードルが高いと思います。
理事長や学長などの大号令で、トップダウンで動くプロジェクトならまだしも、現場主導で動くとなると、教員としての業務に追われる各分野の専門家を、一斉に集めるのは至難の業です。

この時点でチームメンバーを集めることが難しく感じてしまうことが多いでしょう。
 

 

チーム構築のハードルは下がっている

とはいえ先程お話したように、私たちがラーニングアナリティクスに携わり始めたころと今とでは、状況が大きく変わっています。

ラーニングアナリティクスに関する数々の研究成果が出ており、その知見が報告されています。
弊社が関わった研究プロジェクトだけでも、ラーニングアナリティクスに関わる多くの研究成果が発表されています。

そこでは学習行動について、

・どのような情報を集め

・どのようなインターフェイスで可視化すると

・どのような学習効果が出るのか

ということが、論文としてわかりやすくまとめられているのです。
 

 

チームメンバーを選出する方法

先程、ラーニングアナリティクス環境を構築するにあたってプロジェクトチームに必要な知識として、教育システム設計ソフトウェア(プログラミングなど)ハードウェア(サーバ設定など)UIデザイン統計学プロジェクトマネジメントを挙げました。

・教育
この中で「教育」に関する知見は各教育機関内から募る必要があるでしょう。
ラーニングアナリティクスの目的は「データを取得して分析する」ことではなく、「分析結果をもとに教育環境を向上する」ことです。
ラーニングアナリティクス環境の構築にあたって、現場の教員の意見を聞くことも大切ですし、実際に分析結果をもとに教育環境を改善する際にも、教員の協力が不可欠です。

・システム
「システム設計」「ソフトウェア(プログラミングなど)」「ハードウェア(サーバ設定など)」「UIデザイン」については、組織内にいなければ外部パートナーを選定することができる部分です。一括で請け負ってくれるところもあるでしょう。
その際、 LTI や LRS, xAPI など教育DXにおける国際標準規格の知見を持っていることが重要です。
国際標準を理解したうえでシステムを構築しておかないと、後で応用が効かないガラパゴスシステムになり、最悪の場合、また作り直すことになる可能性があるので、注意してください。

今後のオンライン学習環境は、より開かれたものになってゆきますので、学内の様々な教材やツールだけでなく、学外とも連携できるよう、標準に沿ったシステム設計がとても重要です。

外部連携教材の代表的な例としては、 文部科学省が推進している MEXCBT があります。
MEXCBTは、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)プラットフォームで、すでに2.6万校、860万人が登録しています。

また、システムのパートナーを選出する際は、過去のラーニングアナリティクス関連の研究について把握しているパートナーを選べると、さらに心強いです。
これにより、「統計学」の部分がカバーできます。

なぜなら、すでにラーニングアナリティクスの研究成果として
・どのような情報を集め
・どのようなインターフェイスで可視化すると
・どのような学習効果が出るのか
という事例がいくつも報告されているので、これらを理解しているパートナーであれば、どのようなデータを取得してどのように可視化すれば、統計学の専門家でなくても学習行動データを分析できるかというノウハウを持っています。

さらに学内では、プラットフォームとなる LMS の管理者と連携する必要があります。
LMS とは教材やツールを管理するシステムで、日本では Moodle, Sakai, Blackboard, Canvas などが有名です。
諸々設定などが必要となるため、 プロジェクトメンバーとしていくつかのフェーズで参加してもらう必要があります。

・プロジェクトマネジメント
「プロジェクトマネジメント」については、なにも PMP などの特別な資格を持っているスペシャリストである必要はありません。
スケジュール・コスト・クオリティの管理ができ、アウトソーシング先や学内などステークホルダーとコミュニケーション・調整ができる人物であれば問題ありません。
開発後の運用を考えると、プロジェクトマネジャーは、学内から選出できれば理想的です。
 

 

まとめ:最もシンプルなチーム構成

以上のように、今ではラーニングアナリティクスについて多くの研究成果や実績のあるパートナーを見つけられる環境にありますので、各分野の専門家を個別に集めなくても、うまく外部パートナーを活用することで、チームを構成することができます。

最もシンプルなチーム構成としては以下のようになるでしょう。

【 学内 】
・プロジェクトマネジャー
・教育の知見を持ったメンバー
・LMS 管理者

【 外部パートナー 】
・システム開発パートナー
※システム設計・開発、サーバ設定・管理、UIデザインができる
※教育 DX の世界標準規格を熟知している
※ラーニングアナリティクスの研究成果を把握しているまたは研究に携わっている

このようにシンプルに考えていただければ、ラーニングアナリティクス環境を構築するチームづくりも、それほどハードルが高くないことをご理解いただけるのではないかと思います。

次回以降では、ラーニングアナリティクスを実行できる環境を、実際どのように開発すればよいのか、順をおって、システムに知見がない方にもご理解いただけるよう、できるだけわかりやすく解説します。

スパイスワークスでは多くのラーニングアナリティクスプロジェクトに、コンサルティング、サーバー設定、システム開発、UIデザイン、研究支援など、全般的に携わってきました。ご興味やご不明点があればお気軽にご相談ください


【出典・参考文献】
文部科学省CBTシステム(MEXCBT:メクビット)について(文部科学省)