LTIとは?文系でもこれだけで理解できる図式「教育DX」 (Edtech#7)
以前6回にわたってお届けした「文系でも理解できる教育DX」シリーズ。
その時は「ラーニングアナリティクス」を中心にまとめましたが、その後「LTI」についてのお問合せを多くいただきましたので、今回は「LTI」という文脈で教育DXをまとめ直してみたいと思います。
【 目次 】
- なぜLTIが注目されるのか?
- LTIとは
- OneRoster とは
- LTIにできること(1) 教材や学習ツールの統合
- LTIにできること(2) 外部ツールとの連携
- LTI 1.3 とは
- xAPI とは
- LRS とは
- ラーニングアナリティクスとは
なぜLTIが注目されるのか?
LTIについてのお問合せが増えた背景には以下のようなところがあると思われます。
2020年以降、外出自粛などにより教育のオンライン化が進み、大量の教育学習データが蓄積されるようになりました。
以前は学習行動データがツールごとにバラバラになっていましたが、今のように大量のデータが蓄積されるようになると、必然的にそのデータをまとめ、有効活用する手段が求められ、世界標準としての LTI が注目されているのかと思います。
また、利用する教材やツールも多岐にわたるようになっており、 LMS 内にはおさまらないビデオ教材や電子書籍、学習支援ツールなどとの連携をシームレスに行う必要性も高まりました。
そのような中で、スパイスワークスにも以下のようなご相談・お問合せをいただく機会が増えています。
・LTI の導入が必要なことはわかるけど、そもそも何をすればよいかわからないので相談したい。(LTIに関するコンサルティングのご相談)
・すでに持っているツール・教材やプラットフォームを LTI 化したい。(既存システムの LTI 化)
・新規で LTI に対応したツール・教材やプラットフォームを開発したい。(LTI 対応した新規システムの開発)
今回はこのようなことをご検討の皆さまのお役に立てる、 LTIの基礎知識をお知らせできればと思います。
LTIとは
LTIとは Learning Tools Interoperability (学習ツールの相互運用性)の頭文字で、学習用のプラットフォームを外部ツールと連携させるための技術標準です。
具体的にLTIを活用して、学習者や教員は以下のようなメリットを享受することができます。
・一度ログインすれば様々な教材やツールをシームレスに利用できる。
・LMS から外部のテストや教材に接続することができる。
・学習活動データを統合して収集することができる。
前回の「#57 文系でも理解できる教育DX:ラーニングアナリティクス編」以降6回にわたり、「ラーニングアナリティクスを実現する環境」として、以下のような文章で説明しました。
「LTIでLMSや教材・ツールなどをまとめ、LRSにxAPI形式でデータを保持することでラーニングアナリティクスの環境を構築する。」
上記の文章を各記事で順に紹介していったのですが、今回は上記をもとに、 LTI を利用して教育DXを実現するための概念図を作成しました。
今回はこちらの図をもとに、いくつかの部分に分解して、教育DXにおけるシステム標準の概要を、私のような文系人間でもわかる水準を目指して説明させていただきます。
OneRoster とは
こちらは以前の「文系でも理解できる教育DX」シリーズでは触れませんでしたが、重要な部分なのでご説明します。
図のように、校務・教務システムと LMS をつなぐ部分です。
OneRoster は、校務・教務システムなどの学生情報システム(SIS)の、クラス名簿や関連情報を、 LMS など他のシステム間で安全に共有するための国際標準規格です。
1 EdTech(旧 IMS Global )が策定しました。
「 Roster 」は名簿。主に初等中等教育において、クラス名簿や、成績、教材の相互運用を可能にするための技術標準。 SIS (School Information System 校務・教務システム)と LMS とのデータ交換に用いられる。
(日本1EdTech協会)
日本1EdTech協会からの引用文にあるように、クラス名簿や、成績、教材の相互運用を、校務・教務システムと LMS の ID で紐づけています。
LTIにできること(1) 教材や学習ツールの統合
LTI を導入するメリットの一つが、多く知られている「教材やツールの統合」です。
これまでは下図のように、学生や教員がそれぞれの教材やツールにログインする必要があり、多岐にわたるツールを活用する昨今では、利便性に課題がありました。
LTIを介すことで「シングルサインオン(SSO)」が可能となり、学生や教員が、1つの入口から各教材やツールにシームレスに移動できるようになります。
LTIにできること(2) 外部ツールとの連携
LTI は学習用のプラットフォームを外部ツールと連携させるための技術標準です。
LTIを介すことで、学校内の教材やツールだけでなく外部のツールに関しても、シングルサインオンで、学内プラットフォームと連携した形で学習者に提供できます。
これによって教員は外部にある優れた教材をプラットフォームと連携し、内部に置かれたようなシームレスな形で、学習者に提供することができるのです。
例えば、文部科学省が開発・展開を進めている MEXBT と学習プラットフォームを連携することで、国や地方自治体等の公的機関等が作成した問題を活用し、オンライン上で学習やアセスメントができる公的CBT(Computer Based Testing)を利用することができます。
LTI 1.3 とは
LTI 1.1 にもシングルサインオン(SSO)の機能はありましたが、LTI 1.3 では安全性がさらに強化されました。
>> LTI 1.1 と LTI 1.3 の違い:セキュリティについての詳細
また、 LTI 1.3 には以下のような機能が追加されています。
・NRPS (Names and Role Provisioning Services)
(名前と役割のデータを引き渡しできる)
>> NRPS (Names and Role Provisioning Services) とは
・Deep Linking (DL 、ディープリンク)
(プラットフォームが外部ツールから収集したコンテンツをより簡単に統合できる)
>> Deep Linking とは
・AGS (Assignment and Grade Services)
(複数リソースからの成績、進捗、コメントをプラットフォームの成績表に同期できる)
>> AGS (Assignment and Grade Services) とは
また、AGS には以下3つのサービスがあります。
・LineItem Service
( Tool が Platform 側にカラムを追加することができる)
・Score Service
( Tool が Platform 側に成績を書き込むことができる)
・Result Service
( Tool が Platform の成績表から現在の成績を取得することができる)
これらによって具体的にできることとしては、DeepLinking によりLMSから外部にある指定のテストを起動して、 AGS と NRPSによってテスト結果のスコアボードを出すことです。
詳細は以前の記事でご紹介していますので、こちらからご覧ください。
xAPI とは
xAPI は「学習経験データを保持するための標準規格」です。
「x」は experience の略で、 xAPI では LMS 内での一部の活動に限らず学習経験全般のデータを保持・取得することができます。
xAPI のデータは「私はこれをしました( I did this )」というフォーマットで経験を記録します。行為者( I )、動詞( did )、目的語( this )を基本として、スコア、評価、言語、その他追跡したいほぼ全てのものを含む様々な文脈データを保持することが可能です。
>> xAPIとは
学習履歴の取得といえば、 xAPI 以外にもISM Global Learning Consortium (現 1EdTech )が発表した Caliper Analytics があります。
LRS とは
LRS は「 Learning Record Store 」の頭文字で、最も簡単に言ってしまえば、「 xAPI 形式の学習履歴を格納するデータベース」のことを指します。
学習システムに LRS を入れても、通常は学習者がそれに気づくことはありません。
あくまでも学習行動を記録する場所なので、学習者に直接影響を及ぼすものではないのです。
LRS に蓄積されたエビデンスを活用して、教材や学習環境に変化をもたらすことで、はじめて学習者に影響をもたらすことになります。
>> LRS とは
学習履歴を格納するデータベースとして、いくつかのオープンソースが提供されていますが、xAPI に準拠するものとしては Learning Locker などがあります。
>> Learning Locker と OpenLRW の違い
ラーニングアナリティクスとは
ラーニングアナリティクスとは、生徒の学習行動というビッグデータ(学習プロセスデータ)を収集、分析することを言います。そしてその結果を教育現場にフィードバックし、学習効果の向上・学習支援などに活かそうという試みです。
今回の記事でご紹介してきたような、国際的な技術標準を活用して学習システムを構築すれば、幅広い教材をシームレスに活用できるだけでなく、そこでの学習行動データを一か所に蓄積し、そのデータをもとに分析し、教育環境の向上につなげることができます。
「教育データの利活用に関する有識者会議(文部科学省)」では、一校の LRS のみでなく、各学校の LRS を匿名加工して集積するLRS を構築し、データやエビデンスを共有することで、国全体の教育を向上するという案(「教育データの利活用に向けて」 京都大学 学術情報メディアセンター 緒方 広明)も出ています。
弊社はこれまで教育工学などの研究分野でラーニングアナリティクスに携わってきましたが、今後は研究分野に限らず、一般的な教育現場でもラーニングアナリティクスを活用し、分析結果をもとにした「エビデンスに基づく教育」というものが、普及してゆくと思われます。
弊社では現在でも教育DXに対応するためのオンライン教材の LTI 化について、様々なプロジェクトに携わらせていただいております。LTI導入についての全般的なご相談、既存システムの LTI 化、LTI 対応した新規システムの開発、ラーニングアナリティクスなどお困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。
【出典・参考文献】
・1EdTech LTI® 1.3 and LTI Advantage
・教育・研究支援システムのデジタルエコシステム化〜LTI連携を中⼼に〜 常盤 祐司 2022.08.04
・What is OneRoster 1.1?(1 EdTech)
・IPS 一般社団法人情報処理学会 : 学習基盤を拡張する国際技術標準 IMS LTI 1.3 第1回 LTI 1.3の機能と意義(常盤祐司・山田恒夫)
・文部科学省 教育データの利活用に関する有識者会議(第1回)会議資料(京都大学 学術情報メディアセンター 緒方 広明)