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edit 関根 聖二

ラーニングアナリティクスのはじめ方⑧UI実装:教育ダッシュボードのUI実装 (Edtech#16)

eラーニングで学習する大学生

エビデンスに基づいた学習環境の改善を行うことで、学習効果を最大化させ、教育の負担を最小化させるために重要な位置づけとされるラーニングアナリティクス。

前回は教育ダッシュボードをデザインするにあたり、その UI設計のプロセスについてお話ししました。

今回はUI設計の各プロセスについて、具体的な内容を解説します。

【 目次 】

  1. これまでの内容
  2. UI設計のプロセス
  3. 1)ターゲットの特定
  4. 2)ターゲットのゴール設定
  5. 2)-1教員のゴール設定
  6. 3)-1教員のゴールまでの道のり
  7. 2)-2学生のゴール設定
  8. 3)-2学生のゴールまでの道のり
  9. データの可視化方法を設計する
  10. 4)UIの実装
  11. 取得できる多様なデータ
  12. さらに開かれた教育環境へ

 

 

これまでの内容

ラーニングアナリティクス環境を構築する手順として、以下のような流れでお話しています。

プランを立てる
チームを作る
教材やツールをまとめる( LTI )
学習行動データを標準化する( xAPI )
横断的な学習行動データを蓄積する( LRS )
学習行動を可視化する(教育ダッシュボード)
データの利活用を促進する(UI設計1:プロセス)
⑧ データの利活用を促進する(UI設計2:実装) ←今回はココ
⑨ 外部の教材と連携する( DeepLink )

前回はUI設計のノウハウを、プロセスを中心に「ターゲットの特定」までお話しましたが、今回は具体的な例とともにその後のプロセスをご紹介します。
 

 

UI設計のプロセス

前回の記事では「UI設計とは」という内容から、そのプロセスの全体的な内容をお話し、最後に教育ダッシュボードのターゲットを「教員」と「学生」と特定しました。

ではそのターゲットをもとに、どのようにUI設計を進めればよいでしょうか。
前回取り上げた以下のプロセスから、ターゲットのゴール設定以降について解説します。

1)ターゲットの特定
2)ターゲットのゴール設定
3)ゴールまでのルート設定
4)情報の整理
5)UI の実装
 

 

1)ターゲットの特定

前回の記事からの流れで、教育ダッシュボードを利用するユーザーとしてのターゲットは「教員」と「学生」とします。

1)ターゲットの特定」については前回の記事でご紹介しましたので是非ご欄ください。UI 設計のプロセスについてまだお読みでない方は、是非そちらも含めてご欄いただければ、今回の記事をご理解いただきやすいと思います。
 

 

2)ターゲットのゴール設定

教育ダッシュボードの UI を設計するにあたり、ターゲットを設定するだけでは十分ではありません。

それぞれのターゲットが、可視化された学習行動データを何のために使うのか、そのデータを利用して何を達成できればゴールなのかを設定する必要があります。

ターゲットとそのゴールが設定できれば、ターゲットがそのゴールに到達するためにどのような情報を提供すればよいのか、「4)情報の整理」に進むことができるのです。

それでは具体的に、教員や学生が何を達成できることをゴールとするのか、それぞれ見ていきましょう。
 

 

2)-1教員のゴール設定

教員は教育ダッシュボードを利用して何を達成できることがゴールなのでしょうか。
これには前々回の「教育ダッシュボード」の記事でも取り上げた都立高校の例がわかりやすいと思います。

> 都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始について

ここでは教育ダッシュボードの「目的」を以下のように説明しています。

 教員の経験に加えて、データに基づく指導を実現することで、子供たち一人ひとりの力を最大限伸ばしていくことを目的としています。

また、「利用事例」もあげられています。

 授業内外における生徒一人ひとりの端末を利用した活動状況を一覧で確認することで、担任の教員が支援を必要とする生徒を発見し、個別に声掛けする際の判断材料などに活用します。

ここは文部科学省の「育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び」でも言われている「指導の個別化」にも当てはまります。

教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である。

これらの情報から、教員がダッシュボードのUIを通じて得られるゴールは、以下のように想定することができるのではないでしょうか。

教員の経験だけでなくデータに基づいて、子供一人ひとりの特性や学習進度、学習到達度に応じた指導ができるようになる。

これで教員が教育ダッシュボードを使うことによるゴールが設定できました。

しかし、ユーザーが本当に使いやすい UI を設計するには、さらに一歩踏み込む必要があります。

それはユーザーが「ゴールに到達する道のり」です。
 

 

3)-1教員のゴールまでの道のり

教員が「子供一人ひとりの特性や学習進度、学習到達度に応じた指導ができるようになる」ために、どのような道のりが必要でしょうか。

教員が教育ダッシュボードを活用してゴールに至る道のりを、仮に「教員が可視化された学習行動データを閲覧して、学生の状況を理解して改善する。」と想定してみましょう。

しかし私が考えるに、これは理想的な利用方法とは思えません。実際に一回データを閲覧しただけで学生を理解するのは難しいと思います。

一回閲覧して終わりではなく、以下のような内容を「サイクル」として回してもらうことで、より効果的に教育ダッシュボードを活用できると考えています。

(Plan) まずはデータを閲覧して仮説を立て、

(Do) その仮説をもとに授業でのサポートやカリキュラムの改善を実施して、

(Check) 授業後の成果や行動をデータで再度確認し、

(Action) その結果を受けて改善する、

いわゆる PDCAサイクル* の “P”(Plan)と “C”(Check)に教育ダッシュボードを取り入れてもらうことが、効果的なデータの利活用につながります。

※PDCAサイクルとは
Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の頭文字を取ったフレームワークで、これを繰り返すことにより業務の改善が期待できる。

ここで PDCA の例を一つあげてみましょう。


Plan:
成績の思わしくない学生の学習行動パターンと成績の良い学生の学習行動パターンを教育ダッシュボードのデータから比較して、成績の思わしくない学生のどの学習行動を改善すればよいかの仮説を立てる。

Do:
実際に成績の思わしくない学生の学習行動が変わるよう、サポートしてみる。

Check:
成績の思わしくない学生の学習行動が変わったか、また成績が改善したかを教育ダッシュボードのデータで確認する。

Action:
仮説と結果をもとに、カリキュラムやファシリテーションを改善する。


これは一つの例となりますが、教員が「可視化された学習行動データを閲覧して、学生の状況を理解して改善する。」というゴールにたどり着くために上記のような PDCA サイクルを回すことまで想定できれば、それをサポートするためにはどのようなデータが必要か、「4)情報の整理」が進められるようになります。
 

 

2)-2学生のゴール設定

学生はダッシュボードを利用して何を達成することがゴールなのでしょうか。

これは前々回の記事でご紹介した「自己調整学習」だと考えます。

自分の学習計画を立てて、計画通りに学習が進んでいるかをデータで確認したり、自分の学習行動と他の学生の学習行動を比較したりすることで、学習パターンを改善するなど、自己調整しながら学習を進めることにダッシュボードを活用することができます。

学生がダッシュボードを利用して得られるゴールは、「自己調整学習により学習効果を改善する」と設定してよいと思います。
 

 

3)-2学生のゴールまでの道のり

教員と同じように、学生もPDCA サイクルを回して「自己調整学習により学習効果を改善する」というゴールを目指すことを想定できます。

ここでも例をあげてみましょう。


Plan:
いつ、どれくらいの時間、どのような内容をどのような環境で学習するのかという学習計画を立てる。

Do:
計画をもとに学習を実施する。

Check:
学習計画をどの程度実施できたか、ダッシュボードで確認し、評価・自省(リフレクション)する。

Action:
リフレクションの内容をもとに改善策を立てる(計画の修正、実行方法や環境の修正)。


学習ツールによっては、学習計画を立て、結果を確認し、自己の学習行動を内省するという機能が組み込まれているものもあります。

学習計画を立て、それを実行できているか評価することを繰り返すことにより、いつ、どのような環境で、どのような時間で、どのような内容を学習すれば効果が上がるのか、継続的な学習を実現できるのかを検討しながら、学習行動を向上することができます。

上記は自分の学習行動履歴データをもとにした自己調整学習をベースとしていますが、学生が他の学生の学習行動を参考にできる例もあります。

たとえば昨年優秀な成績をとった学生の学習行動と、自分の学習行動を比較することができれば、昨年の優秀な学生の行動を参考にして、学習計画を調整することも可能です。

また、自分と同じように部活動やアルバイトで忙しい学生が、いつどのような学習をしているのかということを参考に、時間配分を検討することもできるでしょう。
 

 

データの可視化方法を設計する

ターゲットが決まり、そのターゲットに提供すべきゴールが設定でき、そのゴールにたどり着く道のりが想定できれば、ターゲットがその道のりの中で必要な情報が明らかになります。

ここからは、情報をいかにデザインするかという内容となります。

・個々のデータを閲覧するにはどのような UI が最適か

・複数のデータを比較しやすくするにはどのような UI が最適か

実際の学習活動では、様々なデータを取得することができます。

教員、学生、それぞれのターゲットに必要なデータも異なりますし、データの活用方法も異なります。

ここで全ての例をあげることはできませんが、シンプルなものを取り上げて、どのような UI が考えられるかお話したいと思います。
 

 

4)UIの実装

それでは実際に、どのようなデータをどう可視化すればよいのか検討します。一つのデータに対する可視化方法は一つではありません。同じデータでも見せ方は複数考えられますので、具体的に例をあげてみましょう。

例えば最もシンプルな例として、 pdf のような e-Book 教材であれば、以下のようなデータを可視化することができます。

①どのページが何回閲覧されたか

②いつ閲覧されているか

このようなシンプルなデータでも、ターゲットとなる教員、学生のそれぞれで利用方法が異なることがあります。また、可視化の方法も複数あります。「教員・学生それぞれの利用方法」と「可視化の方法(インターフェイス)」について取り上げます。

①どのページが何回閲覧されたか

教員の利用方法:
学生がよく見ているページとそうでないページがわかります。
これによって、学生が理解できずに何度か見直しているのか、興味を持つ内容を何度か見直しているのか、重要ではないページとして読み飛ばされているのかなど仮説を立てることができます。

学生の利用方法:
他の学生がどのページをよく見ているのか、自分がよく見たページがどこなのかを見直すことができます。
他の学生がよく見ているページには重要な内容が存在しているのか、教員がポイントとして授業中に伝えていた場所なのかなど、仮説を立てることができます。

インターフェイス:
どのページが多く見られているかの割合を知りたければ、円グラフか帯グラフで表示します。また、ランキング形式で表示すると、多く見られているページとそうでないページを明確に分類できます。

円グラフ、帯グラフ


②いつ閲覧されているか

教員の利用方法:
学生の授業内外での学習活動がわかります。
これにより学生が授業前の予習に時間を使っているのか、復習に時間を使っているのか、課題や小テストを与えるとどのようなタイミングで学習しているのかなどがわかります。

学生の利用方法:
他の学生の学習活動時間がわかります。
自分の学習活動時間も表示すれば、他の学生と自分との比較も可能です。他の学生が予習復習など、どのタイミングで学習しているのか、また同世代の忙しい学生がどのタイミングで学習時間を確保しているのかなどを参考にすることもできます。
自分の成績が思わしくない場合、学習時間や学習のタイミング(予習・復習など)からその原因について仮説を立てることもできます。

インターフェイス:
一日の平均的な行動」を見たいのであれば、縦軸を人数またはアクセス数、横軸を閲覧時間にして、時間ごとの数を棒グラフか折れ線グラフで表示するのがシンプルな方法です。

棒グラフ、折れ線グラフ

週の中での曜日ごとの傾向」や、「1ヶ月を通しての日ごとのアクセス傾向」を見たいのであれば、縦軸を時間、横軸を日にちとして、アクセスされた時間帯に色をつけ、ヒートマップのようにアクセスの多い時間と少ない時間を色で表現すると、全体の傾向を把握できます。また、本人の学習時間をポイントで表示(サンプル画像では ● ▲ ■)すれば、他の学生との比較が可能です。

アクセス時間ヒートマップ

ここでは取得できる学習行動データの中で最もシンプルなものについて、それぞれの利用方法や可視化の方法について解説しました。

とはいえデータを単体で見ることは少なく、実際には複合的に見ることで、学習行動パターンや行動の意図を読み取ることができるようになります。

どのデータをどのように可視化するかは、最終的に得たい成果によって変わります。
いくつかのデータを複合して分析することを前提に、取得するデータと、それを可視化する方法を設計します。

 

 

取得できる多様なデータ

前項では最も基本的なデータを取り上げましたが、実際にはさらに多様なデータを取得することで、詳細な学習行動パターンやその意図・原因などを分析することができます。

例えば、 e-Book で学生がマーカーを入れた部分、マーカーで選択した色(色ごとに「わからない」「難しい」など意味を割り当てると便利)、メモを入力した部分、メモの内容、ブックマークしたページ、ページの遷移・・・など、様々なデータを取得して、可視化することができます。

さらに、センサーやウェアラブルデバイス、アイトラッカー等を利用すれば、脈拍や皮膚電位、視線などのデータを取得し、学習成果との関連性を分析することもできます。
このように様々なデータを取得して分析する手法をマルチモーダルラーニングアナリティクス (MMLA) といいます。

最近では VR 環境によるラーニングアナリティクス研究も注目されています。特にアフリカなど地理的に教育環境に制限がかかる地域では、VR技術は教育に不可欠なものとなりつつあります。VRゴーグルからは上記のような様々なデータを取得できますので、よりラーニングアナリティクスが重要になるでしょう。

ウェアラブル端末から取得するデータ

またベーシックなものとして、学生が記述する「学習日誌」なども参考になるデータです。

ここには学生の内省、成長、つまずきなど、定性的で重要なデータが存在します。

こういった文字データはグラフによる可視化が難しいので、「テキストマイニング」という手法を選択することがあります。

テキストマイニング ( Text mining )

テキストマイニング ( Text mining )

テキストマイニングでは、学生が登録した日誌やメモなどの文章を、単語やフレーズに分解し、利用される頻度や相関関係を可視化することができます。

このように、どういったデータを取得し、どのように可視化するかという部分については、非常に幅広い選択肢があります。

とはいえ幸いなことに、過去のラーニングアナリティクス研究で成果をあげた論文が国内外で公表されていますので、それらを参考にすれば、用途に応じて絞り込むことが可能です。この部分はラーニングアナリティクス研究に詳しい専門家に相談すればよいでしょう。
 

 

さらに開かれた教育環境へ

ここまででラーニングアナリティクス環境が実現され、学習環境の改善や学生の自己調整学習にも活用されるベースが整いました。

しかし、実はここまでの内容で教材やツールをまとめ、横断的な学習データを国際的な技術標準で保存できるようになったことで、さらに学習環境を改善できる状況が整っていることになります。学内だけでなく学外の教材やツールとも連携し、さらにそこで学習したデータも取得し、学内に保存ことができるようになるのです。

外部のツールと連携することで、より幅広いデータを取得できるだけでなく、教員の負担を最小化させ、学習効果を最大化させることにつながります。

次回は DeepLink を用いて学内のツールと連携する方法について解説します。

スパイスワークスでは多くのラーニングアナリティクスプロジェクトに、コンサルティング、研究支援、システム開発、サーバー設定、UIデザインなど、全般的に携わってきました。ご興味やご不明点があればお気軽にご相談ください


【出典・参考文献】
・東京都教育委員会:都立学校における「教育ダッシュボード」の利用開始について

・文部科学省:2.育成を目指す資質・能力と個別最適な学び・協働的な学び