#54 使えない部下への処方箋~3/3:自分で考えない、自主性がない部下編~
「部下」と一緒に検索されているキーワードを調べたところ、1位が「1on1」、2位が「使えない」でした。(「 1 on 1 」についてのお悩みをお持ちの方はこちらをご覧ください)
その中でも部下が使えない具体的な理由として挙がっていたのが以下3点。
① やる気がない(前々回の記事はこちら)
② 報連相ができない(前回の記事はこちら)
③ 自分で考えない、自主性がない
3回目の今回は、「③自分で考えない、自主性がない」について、上司としてどのような対応策があるのかを掘り下げてみたいと思います。
【目次】
- 部下が自分で考えるべき「範囲」を明確にする
- 部下に求める「結果」を明確にする
- 自主性がないのか?能力が足りないのか?
- 本当に「自主性がある部下」でないといけないのか?
- 部下に自主性が身につくタイミング
- 「考えられない部下」とは?
- 考えられない部下と考えられる部下の境目は?
- 考えられる部下の思考とは?
- 考えられない部下をつくる上司の特長
- 考えられる部下を作る上司の特長
- 上司のリアクションが、考えられる部下を作る
- とはいえ適性と限界も考慮する
- DX活用で「考えない業務」を分類する
- 考えなくてよい仕事を与えるのは冷たいのか?
- 環境づくりという大きな視点でとらえる
部下が自分で考えるべき「範囲」を明確にする
部下に自主性を求める前に、まず部下にどこまで「自分で考える」ことを求めるかの範囲を明確にする必要があります。なぜなら、その範囲によって指示の仕方が変わってくるからです。
指示の例としては、営業に「売上を上げろ」、エンジニアに「売れる製品を開発しろ」と言って、それぞれが動けるのが理想です。しかし、それができるのであれば彼らはあなたの部下ではなく、優秀なライバルか、上司になっているはずです。
多くの上司は、どこまでを指示すべきか、どこからが部下が自分で考えるべき範囲なのかが明確になっていません。これが原因で部下に求めすぎることになりがちですので、注意が必要です。
部下に求める「結果」を明確にする
また、部下にどのような結果を求めるのかによっても指示の仕方が変わります。
具体的には自分の思ったとおりの成果物を求めるのか、部下なりの個性を発揮した成果物を求めるのかという方向性です。
部下なりの個性を発揮してもらうのであれば、あらかじめ必用要件のみ提示して、その結果が自分の想定と異なっていても、要件さえ満たしていれば受け入れる必要があります。
注意が必用なのは、指示の仕方と求める結果のギャップです。
多くの上司は「大まかな指示」を出しながら、自分が思ったとおりの「詳細な結果」を求めてしまいがちなのです。
しかし、自分が思った通りの詳細な結果を求めるのであれば、そこに部下の自主性を求める必要はなく、詳細な依頼をするのが最も効率がよいのです。また、日頃から部下が自分のコピーのように動けるよう、業務マニュアルを徹底的に詰め込む方が、考える部下を育てるよりも有効です。
自主性を求めることが悪いと言っているのではありません。上司は自分が求めている「結果」に対して、部下の自主性がどれくら必要なのか、あたらめて確認する必要があるということです。
それに合わせて、上司からの指示の仕方や教育の方法を見直しましょう。
自主性がないのか?能力が足りないのか?
また自主性を求めるうえで、その部下がなぜ自主性がないのか考える必要があります。
もしかすると、自主性があってもスキルと能力が足りなくて、それが表面に出てきていないだけかもしれません。
その場合は今すぐ自主性を求めるのではなく、まずは業務を行う上での知識を教え、今実行すべきこと、調べるべきタイミング、相談する相手や方法など具体的な業務プロセスを教える段階にあります。
それができてから自主性を持たせるという順番で遅くありません。
本当に「自主性がある部下」でないといけないのか?
また根本的なところで、必ずしも「自主性がある部下」がベストなのかどうか、あらためて見直してみたいと思います。というのも、実は自主性がない方がいい場合もあるからです。
以下のマトリックスを見て質問にお答えください。
質問)以下は「知識や能力がある」と「自主性がある」の2軸マトリックスです。この中で上司として最も苦労するのはどの部下でしょうか?
①~④でお答えください。
一見、「③知識や能力がなく、自主性もない」という「両方ない」部下が最も悪いように見えますが、本当にそうでしょうか。
知識や能力がないのに、上司に相談せずに突き進んでしまう「④知識や能力がなく、自主性はある」という部下は、事故やトラブルの元凶になってしまいます。
自分で考えられることは大切ですが、知識や能力がないにも関わらず自主的に動こうとする部下は危険です。自主性を求めるのは、部下が「④知識や能力はあるが、自主性はない」段階になってからにしましょう。そして、「④知識や能力がなく、自主性がある」のエリアには行かせないよう③→①→②とうまく導く必要があります。
部下に自主性が身につくタイミング
ここでわかることは、必ずしも全員が自主性を持った部下でなければいけないわけではないということです。
チームの中にまだ「知識や能力」を身に着けていない部下がいるのであれば、その部下たちには自主性を求める必要がないことを上司が認識し、「知識や能力」を得るための育成に集中することが大切です。
そしてある程度「知識や能力」が身について自分でプロジェクトを回すことができるようになれば、多くの場合自主性は自然に芽生え始めます。最初から無理やり自主性を求めるよりも、部下のタイミングを見計らって指導することが大切です。
「考えられない部下」とは?
知識とスキルがあれば、言われたことはできるはずです。
それでも「自主性がない。自分で考えられない。」と言われる部下がいるのはなぜなのでしょうか。
自分で考えられない部下というのは、別の言い方で「言われたことしかやらない」とも言われます。
ここが「自主性がない。自分で考えられない。」人を分析するうえでのヒントになります。
実は本人に悪気はなく、言われたことをやることが正解だと思っている場合もあるのです。
考えられない部下と考えられる部下の境目は?
それではそこから一歩先に進み、「自分で考えらえる」と言われるようになるにはどう変わればよいでしょうか?
「言われたこと」に対して反射的に行動するのではなく「上司はなぜこれをやれと言っているのだろう?」と想像することが大切です。
これが「考えられる部下」の仕事の仕方です。
例えば上司から「この前クライアントに提出した書類、もう一回見せてくれる?」と言われた時、考えない部下は、言われたままに上司にその書類を見せれば作業が完了していると考えます。
これが「考えない部下」の仕事の仕方です。
考えられる部下の思考とは?
考えられる部下は「なぜ上司は、この前の書類をもう一度見せろと言っているのだろう?」と考え、「クライアントからクレームが入ったのかな?」「それとも値引きの交渉が入ったのかな?」ということを想像します。
そして上司に書類を見せながら「何かありましたか?どこか見直す部分があれば修正しておきます。」と、一言添えることができます。
ここまでを仕事とする人は「あの部下は考えられる」と言われます。
「上司はなぜこの依頼をしたのか」を考え、「それに対して自分ができることは何か」を見つけようとする。原因を把握したうえで問題を解決する行動を導き出すところまで行く部下は「考えられる」部下になるのです。
考えられない部下をつくる上司の特長
以上は部下の受け止め方の違いですが、考えられる部下を作れるかどうかは上司の依頼の仕方でも変わってきます。
「この前クライアントに提出した書類、もう一回見せてくれる?」と依頼し、それを見て「ここをこう直して」と具体的に指示してしまえば、考える部下は育ちません。
この場合、部下が上司から求められているのは、言われたように書類を見せ、言われたように直すだけの「考えない作業」となります。
そして部下は、なぜこの修正が入ってそのように直すのかということを理解せずに「作業」することになります。
確かに、短期的に見ればこのような具体的な依頼の方法が効率的です。
明確な指示を出せば部下は迷いません。最初からはっきりした答えを伝えて、その通りに作業してもらえるので、部下にとっては試行錯誤する余地がありません。
知識や能力が身についていない部下には、しばらくこのような依頼の仕方をする期間も必要です。
しかし、この上司の下では考えられる部下が育たないので、いつまで経っても部下に権限を委譲できません。この状況を続けていると、常に上司が考えて詳細な指示をしなければチームが動きませんので、上司の限界値がボトルネックになり、それ以上にはチームの生産能力が向上しません。
考えられる部下を作る上司の特長
一方、考えらえる部下を育成できる上司の対応はこうなります。
「この前クライアントに提出した書類、もう一回見せてくれる?」
と、依頼内容を伝えたうえで、
「というのも、値引きの交渉が入ってるんだよね。」
と「なぜもう一回書類を見たいか」の「理由」を後付けします。
そして、
「値引きの交渉が入ってるんだけど、どこか内容を減らして減額できないかな?」と「相談」します。
前出の上司のように具体的な指示で終わってしまうのか、後者のように「というのも・・・」と「もう一度見たい」理由を伝えて、部下への相談につなげ、部下が考えることを促せるかどうかで、考えられる部下が育つ上司かどうかに分かれるのです。
上司のリアクションが、考えられる部下を作る
部下に考える機会を与えることで自主性を促す方法をお伝えしましたが、その後部下が考え、提案してきた際の上司の対応も重要です。
部下から出た意見が、自分が想定していたものと同じだったという機会も多いでしょう。この時の返答が大切です。
「私も同じこと考えてた!」
・・・は、我慢しましょう。
たとえ自分と同じ考えでもそれは隠し、
「確かにそれはいい考えだね!」
と言えるかどうかが大切です。
これにより、上司と同じだった部下のアイデアを、全て部下の手柄にしてあげることができます。そして部下に、自分で考えることに対するポジティブな経験をしてもらうのです。
また別のパターンとしては、「たいした意見が出て来ない」ということもあるでしょう。
その時の対応も大切です。
「これ、よく考えた?」
・・・などは愚問です。部下はよく考えた結果、この案を出してきているのです。
はなから否定せずに、
「なるほど。」
と一度受け入れましょう。
そのうえで「そこを削るとクライアントはこういう時に不便になるかもしれないね~。」「他にも何かないかな~。」「だとすると、たとえばこの辺とかどうかな。」と、部下の意見からつなげて自分の意見を伝え、それに対する部下の回答を引き出して、どうにか「相談に応じた部下」の功績にしてしまうのです。
前回の「報連相できない部下」と同じように、上司の対応次第で、考える部下が育つ可能性は大きいのです。
とはいえ適性と限界も考慮する
とはいえ、いかに上司が頑張っても、効果がでないケースがあることも事実です。
これは本人の考えや能力に依存する部分で、以下のようなパターンの場合は、上司がどんなに頑張っても、部下が「自主的に考える力」を身につけるのは難しいです。
・そもそも本人が「考えなくてもできる業務」を望んでいる
・幼少期からの経験で「自主的に考える力」が養われてこなかった。
これらの場合、本人が心から「自分で考え、自主的に動ける人間になりたい」と思ってくれるまでは、上司がいかに手を差し伸べても効果は期待できないでしょう。
本人が考えずに言われたことをやりたいと考えているか、または適性的に答えを出してあげないと難しい場合は、考えなくていい業務を集中して依頼してあげた方が、本人とチームのためになります。
社内の業務を分析してみると、「あまり考えなくてもできる業務」は意外と多く存在するものです。
そして現実的には、能力の高い人が、通常業務とともに「あまり考えなくてもできる業務」に時間を費やしてしまい、チームの時間効率が下がってしまっています。
能力が高い人が行っている「あまり考えなくてもできる業務」を「考えたくない人」に対応してもらえば、チームの生産性は向上します。
「考える業務」と「考えない業務」をチームメンバーの適性に応じて配分し、誰かが「考えない業務」を集中して行ってくれた方が、高い能力を持った人の力をより効率的に発揮できることになるのです。
このように、「必ずしもチーム全員が考えられる必用はない」のだと認識できれば、チームの生産能力が向上し、リーダーの気持ちにもゆとりができるかと思います。
DX活用で「考えない業務」を分類する
「あまり考えなくてもできる業務」を「考えたくない人」に集中させるにあたっては、「考える業務」と「考えない業務」を分類する作業が必要です。これに手間がかかるように感じますが、実はDXを活用すればシンプルに切り分けることができます。
弊社が開発・活用している工数管理DXの「Playth(プレイス)」ワークログ機能では、日報を登録する際にプロジェクトを選択し、業務区分、業務詳細の順に選択します。
それがメンバー全員のワークログにデータベース化されています。
業務詳細を分類すれば「考えない業務」と「考える業務」がはっきりと区別できますので、考えられる人の業務詳細の中で、考えなくてよい仕事に使っている時間を簡単に見つけることができます。
これを考えたくない部下に配分していけば、考える人も考えない人も、双方にとって適切な業務にあたることができ、チームの生産能力も向上します。
考えなくてよい仕事を与えるのは冷たいのか?
考えない部下に「あまり考えなくてよい業務」を配分するのは、冷たいのではというご意見もあると思います。
「上司として誰に対しても平等に人材育成に取り組むべきでは?」という意見もあるでしょう。
しかしこれは、短期的には「考えたくない部下」本人のストレス軽減につながりますし、中長期的に見れば本人の成長につながる可能性があります。
今その人が「考える業務」をしたくないのであれば、「考えない業務」の方がストレスなく対応できるでしょう。しかし、人間はずっと「考えない業務」ばかり続けていると、それがストレスとなり「考える業務」をしたくなるものです。
また、「考えない業務」をしているだけでは収入も上がりようがありません。時間が経過する中で収入が上がらなければ、本人がどうすれば評価され、収入が上がるのか考える機会が生まれるでしょう。
本人が求めない状況で上司が無理やり「考えて仕事しろ」と命令するよりも、このように本人自身が「もっと考える仕事をしたい」とか「考える仕事をしないと収入に影響する」と思ったタイミングの方が、成長につながります。
部下が前向きに「考える業務」に取り組もうと思ったタイミングで少しずつ「考える業務」に切り替えていけば、無理やり「考える業務」を押し付けられていたころのストレスや嫌悪感は減り、学習効果は向上するはずです。
環境づくりという大きな視点でとらえる
「北風と太陽」の物語で、北風は強風で旅人の服を無理やり脱がせようとしますが、風を強めれば強めるほど旅人は服をしっかり押さえて抵抗します。しかし太陽が旅人を暖かく照らすと、旅人は自分から服を脱ぎ始めます。
部下が教育を受け入れない時、北風のように無理やり押し付けるのではなく、太陽のように成長したくなる環境を用意するのも上司の役割なのではないでしょうか。