BRANDING Customer interview

Vol.2 SNSの台頭で、より力を増した女性の口コミ力。 関根 聖二 X 日野 佳恵子(HERSTORY)

SNSの台頭で、より力を増した女性の口コミ力。
現代のWebサイトに求められるものとは?

古くは井戸端会議の時代からマーケットを左右してきた女性の口コミ。SNSの時代が到来し、その影響力は日増しに大きくなっています。
WebサイトやSNSの在り方について、口コミマーケティングの考え方を中心に探ります。

Special Interview 2014 関根 聖二 X 日野 佳恵子
Webサイトは主役ではなくなっている

関根

最初にハー・ストーリィさんの事業内容について、簡単にお話しいただけますか。

日野

創業より一貫して、女性――特に既婚者、主婦中心のマーケティングサービスを手掛けてきました。クライアントは、女性を対象とした商品のメーカーや、販売会社がメインです。私たちの特徴は、10万人の女性会員を保有していること。スピーディーに女性の声を聞くことができるアンケートサイトや、マーケティング調査のための座談会サイトを運営しており、リアルタイムで消費者の声を企業に提供できることが強みです。一言でいうと、女性集客を専門としたマーケティング会社ですね。

関根

2013年には新ビジネスとして、オリジナルのファッションブランド「ルーベリカ」を立ち上げられましたよね。このブランドは、「大人女性のためのシワにならないエレガントワンピース専門店」をコンセプトに作られました。そして商品の販促を行う上で、商品紹介サイト、ECサイト、Facebookページの3つを展開されています。私たちは、商品紹介サイトの制作を担当させていただいたわけですが、そこで感じたのが、それぞれのサイトの使い分けについてです。

日野 佳恵子イメージ画像

日野 佳恵子
1990年に株式会社ハー・ストーリィ設立。
独自のメソッド「クチコミュニティ R・マーケティング」を活用して企業の問題を解決。 著書に「クチコミュニティ・マーケティング」「ファンサイト・マーケティング」等

関根 聖二イメージ画像

関根 聖二
2001年に株式会社スパイスワークスを設立。
ウェブサイトの制作およびeラーニングシステムの開発。

関根

それはよかったです。今回は商品紹介サイト、ECサイト、Facebookページを使った販促展開をされていますよね。Facebookページの位置付けについては、どのようにお考えですか?

日野

Facebookページでは新作の情報や、商品を着ているお客様をアップすることで、そこからダイレクトにショッピングにつなげるという役割を持たせました。Facebookの良いところは、「いいね」の機能があるところ。
「いいね」を押す人というのは、少なくともこの価値観が好き、という人のはずなんですよね。「いいね」を押した人たちは見込み客、もしくは未来に買う感覚を持っている人たちですから、ここに自分たちに関心を持っているコミュニティができるんです。
まずは、「いいね」の数をとにかく意識することが大事。実体験から言うと、「いいね」が1000を超えた時点から、物販がみるみる動き始めました。2000を超えたらさらに見込み客の動きが活発化し、そして3000を超えたらマーケットが変わってくると思っています。

日野

私たちは、商品紹介サイトでは「感性」を共有したいと考えていました。というのも、世の中にある全てのサービスはデザインが成熟しており、品質のクオリティもこれ以上ないところまで高まってきています。ファストファッションのように安価であっても、品質もパーフェクトに近いですよね。「低価格、高品質は当たり前」となると、人々の次なる関心は、「より手に入らない」「よりかっこいい」「より気持ちがいい」という部分に移るのではないかと考えたんです。今回スパイスワークスさんにサイト制作をご依頼したのは、私自身がスパイスワークスさんの感性が好きで、五感に訴えるサイトを作りたかったからです。従来のECサイトというイメージではない高付加価値を出したいと思っていました。逆に関根さんにお伺いしたいのは、どのような点を意識されてサイト制作に取り組まれたのか、ということです。

関根

ユーザーの方がサイトを訪れた瞬間、直感的に「これは私のためのブランドかも」と感じてもらうことが重要だと考えました。商品の説明文や図解ではなく、サイト全体から醸し出される雰囲気、色合いや写真、スペースの使い方などが自分の世界観にしっくり来て、「いいかも」という感情を湧き上がらせることを意識しました。ルーベリカさんの商品は第一に「シワにならない」という大きな特徴がありましたが、それは感性ではなく説明で訴える部分としてデザインの段階では一旦置いておき、フリーサイズであまり体型を選ばず、形と柄を自由に遊べるという特徴に注目しました。というのも、人の直感的な部分に訴えるのは視覚、つまり「ワンピースの柄」のほうが強いと考えたからです。一度着てしまえば自由に好きな柄を選んで楽しむことができるので、各ページの背景に大胆に柄を敷き、柄との出会いの機会を提供することで、潜在意識の中で「あれもいい」「これもいい」というように気持ちが膨らむインターフェイスにしたいと考えました。

日野

確かにそれはおっしゃる通りで、実はある一人のお客様が先週7着も購入してくださったんですね。そして今週になって追加で8着も購入されたんです。合せて15着です。 まさにこれは関根さんがおっしゃるように、ルーベリカの世界観を見て「私の場所はここだ」「このお店は私のライフスタイルを分かっているかも」と思っていただけた証拠だと思います。

リアルを想像する女 理想にあこがれる男
シワにならないエレガントワンピース専門店"ルーベリカ"イメージ画像

関根

確かに、ルーベリカのサイトでは、どの商品も生身の人が着た写真を使ってらっしゃいますね。しかもFacebookページではモデルさんではなく、お客様の写真しかありません。

日野

どのお客様も必ず言うんですよ。「サイトに載っている人は、モデルさんだもんね」って。モデルさんは細いから、ウエストは58センチ位かも…と思われるわけです。「普通の人が着たらどうなるんだろう?」という疑問が浮かぶのは自然なことです。だから、私たちはFacebookページでお客様の写真を載せるんです。

関根

商品紹介サイトではモデルさんの写真がありますが、これはルーベリカというブランドイメージのための演出で、Facebookページはお客様が実際に着られていたり、生活の中の具体的なシチュエーションの中で洋服がどう見えるのかを実感できる。WebサイトとFacebookの距離感の違いをうまく演出されている例だと思います。

日野

私たちはSNSを使ってお客様と対話しながら、次の製品の丈の長さをどうするとか、サイズ展開をどうするとか、商品企画に活かしています。マーケティングツールとして、SNSは最高。SNSはお客様の声が集められるだけでなく、お客様とインタラクティブなコミュニケーションがとれるわけですから。お客様の気持ちの動向が、直に触れられる機会は貴重です。アンケートサイトを使わなくても、マーケティング会社を使わなくても、商品をさらにバージョンアップしていけるんです。

関根

これまでは、メーカーのサイトでスペックを見るという行為が購買へつながるファーストステップでした。しかしSNSが主流になると、Facebookで友達の情報を見つけて、商品サイトを通さずに直接ECサイトを訪れるケースが見受けられます。それだけ現代ではSNSの影響力が強くなっているということですよね。

日野

商品紹介サイトはどちらかというと、製品訴求もしくは価格訴求型のもののほうが多いんじゃないかなと思うんです。SNSはブログに近い臨場感と親近感が出せるので、ターゲットのライフスタイルとの共感が図りやすい。ちょっとこだわっている商品とか、思いが込められて作られた商品などはFacebookやSNSを融合させたWeb型に向いていると思うんですね。現代は口コミが拡散しやすい状況にあります。なぜなら個人がメディアを持ったから。昔は掲示板が主流でしたが、掲示板は相手の土俵。つまり他人のページというのは、その人のグラウンドなんだという意識がありました。今はお一人ずつのグラウンドがある。口コミの土俵である「自分のグラウンド」を全ての人が持てるというのは、10年前からすると大きな違いなんですよ。

関根

なるほど、確かにそれはあるかもしれないですね。日野さんの書籍には、女性の場合はどちらかというと男性よりも直感的に購入する傾向にあるというお話がありましたが、具体的にSNSにはどのような記事や写真を投稿すべきなのでしょうか?

日野

まず、もともと現代のECサイトは写真が命なんですよ。消費者の目が肥えてきたこともありますし、Webだと写真でしか商品を判断できないので、「あ、いい感じ」とか「ステキ」と思わせてこそ購入の興味が出てきます。その上で、男性向けの商品と女性向けの商品の見せ方の違いがあって、メンズの場合はプロダクツに関心が集まるのが特徴。製品を石の上に置いてみたり、一つの箇所をアップしてネジの間隔を見せたり、製品そのものをかっこよく撮ることが大事なんです。メカそのものに命を吹き込んだような撮り方が、男性のお客様には刺さるんですよね。一方女性は、商品を着ている、商品を持っている自分を想像するんですね。Facebookのコメントを見ていると、「椅子に座ったときのひざの出方がいやです」というようなコメントがたくさん寄せられます。自分が着たときに、どんな風にひざが出るのかを想像して見られているんですよ。そして、「商品を着ている方の身長は何センチですか?」「日野さんがパソコンを打っているときの全身が見たい」とか、「座っているときの腰の感じはどうなっていますか?」というリクエストが来ます。なのでこの休日に、私自身がモデルとなってカフェや海辺で撮影をして(笑)、その写真を全部サイトにアップしました。先ほどもお伝えしましたが、女性はリアリズムを求めるものなんですね。

Ruberica(ルーベリカ)Facebookページイメージ画像
ルーベリカオンラインショップイメージ画像

関根

これから大切になるのは、ターゲットを探してマーケットを作るというよりも、世の中にない世界観を作り上げて、そのストーリーに対して「自分のライフスタイルに合いそう」と思ってもらう努力が必要なのかな、と。そして気づいてみたら共感してくれる人がどんどん増えていた、というのが理想ですよね。

日野

そうそう。この前、テレビを見ていたら、日本が誇るアニメプロデューサーが作品づくりの話をされていて、その中で「不特定多数を意識しない」と仰っていたんです。この言葉はとても胸に刺さりました。それは、数を売らなければならない大手企業にとっては過酷なようにも見えるんですが…。これからはユニークなもの、より非日常なもの、奇抜なもの、もしくはなかなか手に入らないものが価値を持つようになるでしょう。これまでニッチマーケットが手掛けてきた商品企画やPR手法を、マス企業が取り入れる時代になっています。大手企業もやっぱり同じように不特定多数ではなくて、ターゲットである個人に対して訴求を図るスタンス、ストーリー共感型のPRにシフトしているんですよね。

SNSを使ってストーリーを生み出し
共感を図るスタンスへ

関根

確かにそうですね。SNSを運営する企業が増える中で、今後、企業のWeb担当者やWeb制作会社が心掛けるべきことはありますか?

日野

SNSは人柄が滲み出てしまうメディアです。SNSに投稿された記事を読み進めていくと、その人の生き方や、好きなもの、大切にしていることなどが見えてしまう。
つまり、「考え方」が公開されていくんですよね。個人は個人の考え方があっていいのですが、法人となると組織としてのあり方が基点になります。会社に対してポジティブではない状態の人がSNSの記事を書くと、ネガティブな感情がどうしても表れてしまうもの。つくづく思うのは、企業の根本にある理念や行動指針などが、社員全員に浸透していないと危ないということです。

関根

しかも昔と比べて今は感覚のレベルが上がってきているので、第三者が見たときにワクワク感というか期待感が感じられることも重要なのかなと思います。Web制作会社を検索すると、たくさんの企業が出てきて、その中から一社を選ぶのは至難の業です。そこでFacebookページを見てみたら、同じWeb制作会社でも「業務以外でもこんな面白い取り組みをしているんだ」「みんな仕事を楽しんでそう」というストーリーの共感が図れると、それは他社との大きな差別化になりますよね。以前は過去の実績が全てでしたが、今はその会社にはどんな人たちがいて、何をやりたいと思っているのかという未来に向けてのストーリーも見られるようになっていると思います。

日野

まさにおっしゃる通りです。ハー・ストーリィらしさで言うと、今のSNS時代というのは個人が主役だと思っているので、お客様の写真をアップするだけではなくて、お客様にワンピースの柄を自由に選んでいただいたり、新作のためのテキスタイルを選んでいただくようにしています。今までのファッションブランドというのは、デザイナーが主役でしたよね。私たちは、お客様が主役ということを守り続けていきたいと思っています。

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