EDUCATION Customer interview

Vol.1 Web技術を活用した“ソーシャルラーニング”という新たな市場を探る 関根 聖二 X 山内 祐平(東京大学)

デバイスの発展がコミュニケーションを進化させる―。
「ソーシャル」が変える、教育現場の“今”。

Webサイト制作の技術はソーシャルゲームをはじめ、さまざまなインターフェイスで利用されてきました。
今後注目されると思われる「教育アプリケーション開発」の今を検証し、Web技術を活用した“ソーシャルラーニング”という新たな市場を探ります。

Special Interview 2014 関根 聖二 X 山内 祐平
デバイスの進化と共に様変わりした学びの形

関根

IT技術の進化、特に携帯電話の進化は、教育の分野にも大きな影響を与えました。
当社が学習インターフェイスの研究に関わらせていただいてから、10年が経とうとしています。当初に山内先生と取り組ませていただいた、親子のための理科学習プログラム「おやこdeサイエンス」のプロジェクトは想い出深いですね。

山内

「おやこdeサイエンス」は、携帯電話を学習の道具として利用する点が当時特徴的でした。子どもが理科の実験をしている間、携帯電話はデジタル参考書として機能し、子どもが得意な部分や苦手な部分、指導のポイントといった学習の状況が、親の携帯電話に届けられる。それをきっかけに、親子のコミュニケーションを深めることが狙いでした。
しかし当時はガラケー世代。コミュニケーションを図る機能としてはメールぐらいで、リアルタイム性や送られる情報の濃さはそれほどありませんでしたね。スマートフォンやタブレットが普及したことによってリアルタイムに共同学習を実践でき、かつ非常に精緻な情報をやりとりできるようになり、細かいコミュニケーションのサポートが可能になりました。スマートフォンやタブレットの台頭により、「ソーシャル」という概念がじわじわと普及し、一般化していくことになります。

山内 祐平イメージ画像

山内 祐平
東京大学大学院情報学環准教授。
「学習環境のデザイン」を研究テーマとして活動。
著書に「デジタル教材の教育学」「学びの空間が大学を変える」等

関根 聖二イメージ画像

関根 聖二
2001年に株式会社スパイスワークスを設立。
ウェブサイトの制作およびeラーニングシステムの開発。

工程の設計がないと
ソーシャルラーニングは機能しない

関根

「あなたのまちと首都直下地震」は、首都直下地震が起きた場合のゆれやすさ、建物倒壊危険度、火災危険度等の危険性をチェックすることができるWebアプリでしたね。
地震による災害リスクを把握し、万が一のときに備えられることがメリットです。
このサービス開発に着手された背景はありますか?

山内

3.11に東日本大震災が起きたにも関わらず、大人は防災を学ぶチャンネルがありませんでした。多くの人たちに防災について考えてもらうきっかけが必要だ、と思って科学研究費の申請を行ったんです。この「あなたのまちと首都直下地震」というサービスは、自宅の住所を入れるだけで、どのような危険が起きるかをシミュレーションできるのが特徴です。これはあまり知られていないことですが、震源の場所によってかなり予想震度は変わり、その結果、災害の大きさも変わってくるものなんです。
「震度が変わると建物が崩壊する」とか、「火災がこういう風に起きる」というように、地震による災害のリスクが総合的に分かるところが好評をいただいています。

関根

その流れを汲んで誕生したのが、ソーシャルラーニングの分野でした。当社も開発に参加させていただきました小論文ソーシャルリーディングシステム「SCSS」の研究が挙げられますね。これはソーシャルの環境下で小論文の課題テキストにマーカーを入れ、Web上でコミュニケーションを深めながら読解からアイデアを広げ、そこで出たアイデアをもとに最終的に小論文を作成できるという画期的なサービスでした。「SCSS」はどのような意図で開発されたのでしょうか?

山内

もともとは、学生の文章作成能力を上げる仕組みを作りたい、という思いから開発がスタートしました。まず先行研究の「Re:」で取り組んだのは、推敲作業のソーシャル化。実際、お互いに文章を推敲しあうことによって、文章を読んだり書いたりすることが前より楽しくなるという結果が出ていましたし、推敲前と後の小論文を比べてみると、推敲後の得点が高くなるということが分かったんです。
SCSSではさらにアイデアの活性化を促すため、今流行の「スタンプ」や「共感ボタン」を押すことで、お互いに評価し合えるような機能も追加し、コミュニケーションを活性化させるインターフェイスへ進化させました。また、ユーザーが積極的に書き込みをするとスタンプが増えるといったゲーミフィケーション的な手法も導入。
このインターフェイスは、ユーザーに大好評でした。
このときは学生に向けたサービスでしたが、ソーシャルラーニングは何も学校や企業だけで使われるものではありません。家庭内など一般的な環境でも通用するということが、スパイスワークスさんの協力で2013年6月にリリースしたWebアプリ「あなたのまちと首都直下地震」の開発で確信に変わりました。

防災マップアプリ"あなたのまちと首都直下地震"イメージ画像
技術が進化しても、
「人と人をつなぐ」根幹は変わらない

関根

この10年で、スマートフォンが普及し、インフラも強化され、インターフェイスもリッチなものになりました。双方向性という意味でもよりタイムリーなコミュニケーションが可能になったと思います。
今後のデジタル教材にはどのようなことが求められると思われますか?

山内

テクノロジーの進化によって、人と人の距離や時間差がなくなり、コミュニケーションが進化しました。技術革新は起こりましたが、その根幹にある「人と人との間をどうつなぐか」は今も昔も変わりません。
今後のインターフェイスに求められるのは、リアルに近いコミュニケーションの温かみかもしれませんね。「SCSS」の研究などは非公開にされていたのですが、「あなたのまちと首都直下地震」は一般に広く公開されています。つまりこれは、日常的な学習支援が自然とできるような時代に入ったという証拠なんですね。
昔は「Webで学習なんて無理だ」という雰囲気でしたが、今はWebを使って映像を見たり、物を調べることが日常化しているので、Webを使った学びも普通のことになるでしょう。
おやこ de サイエンスから10年。
eラーニングは研究から実用のフェーズに入りました。
これから本格的に市場が形成されていくのではないでしょうか。

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